ルールとマナー

尾瀬は「日本の自然保護発祥の地」と謳われます。
それは、明治から昭和に掛けての尾瀬ヶ原ダム計画に始まり、尾瀬ブームによるゴミ問題と湿原の荒廃、高度経済成長期には観光道路の計画など、様々な開発から尾瀬を守り、後世に伝えてきた歴史があるからです。

そうした過去の教訓から、訪れる人に残された自然を一緒に守ってもらいたいという思いで、独自のルールとマナーを啓発しています。
長年の地道な取り組みのおかげで現在は尾瀬国立公園内でゴミを捨てる人や、湿原に立ち入る人はほとんど見かけません。

過去の歴史を交えながら「なぜ」ルール守らなければいけないのか。一度目を通して頂ければ幸いです。
皆が気持ちよく尾瀬を歩けるように、ルールとマナーを守って尾瀬を楽しみましょう!

湿原には立ち入らない

最初は人々が歩きやすいように設置された尾瀬の木道ですが、時代とともに湿原を守るための意味合いに変わった歴史があります。
それは、昭和40年代の尾瀬ブームのさ中、湿原の上を歩く事により荒廃が進んだ過去があったからです。色とりどりの花を咲かせていた湿原が登山靴によって掘られ、「裸地化」と言って植物が育たなくなってしまいました。
湿原とは枯れ草があまり腐らずに残ったもの。それらを泥炭と言い、長い年月を掛けて積み重なった物を泥炭層と言います。これらは年に0.7~0.8mmと少しずつ堆積して現在の広大な湿原を作り出しています。
一度裸地化した湿原を元に戻すのはとても大変。長い年月をかけて形成された湿原は、たいへん貴重な自然環境です。
写真に撮りたい花が遠くに見えても、安易に湿原を踏みつける事が無いように。皆で尾瀬の自然を守りましょう。

動植物の採取禁止

尾瀬には900種以上の植物や、珍しい動物・昆虫など多くの生物が生育しています。
その中にはなかなか見る事のできない高山植物や、食べられる山菜・きのこも含まれていますが、尾瀬国立公園は広い範囲で「特別保護地区」に指定され、生態系に影響を与える行為が禁止されています。
したがって採取禁止はもちろんの事、枝を折ったり石を動かしたりする行為も厳密には禁止です。

過去には人の目に及ばない山林で植物の盗掘がありました。見つからなければ大丈夫だろうといった気持ちではなく、みんなで自然を守り、そこに生息する動植物の住処にお邪魔させてもらうつもりで目で見て楽しみましょう。

ごみは持ち帰る

昭和40年代、車道開発から尾瀬を守る運動を行う一方で、オーバーユースによる湿原の荒廃やゴミによる景観の悪化、また遊覧船やエンジンボートによる水質汚染など、矛盾した多くの問題を抱えていました。
当時は至るところにゴミ箱が設置されて、道行くハイカーはお弁当の空き箱やジュースの空き缶など気軽に捨てていましたが、それにより生ごみを漁るネズミやカラスが増加するなど、自然環境への悪影響が懸念される事態に。

昭和47年に、はじめての「ゴミ持ち帰り運動」が実施されると、翌48年よりゴミ箱を撤去し始めました。
誰が言い出したか「ごみ箱があるからごみを捨てる」、それならば「ごみ箱をなくせばごみを捨てなくなる」という逆転の発想により、尾瀬林業だけでも1400を超えるごみ箱の撤去を行いました。
当初は利用者から反発もあったようですが、地道な取り組みのおかげで理解者も増えて景観も復活。現在も登山道に落ちていたゴミは尾瀬関係者やボランティアの方が拾い集めて景観保全に努めています。

右側通行・登り優先

尾瀬の木道はすれ違いやすい様に二本伸びています。街の交通ルール同様に、右側通行を心掛けて下さい。
また、木道が一本だけの場所や、山道では登りの人を優先してすれ違いましょう。
ただし行き交う人が多かったり、場所によってすれ違いにくいところもあると思います。そんな時は声を掛け合って、譲り合いの精神をもって臨機応変に対応しましょう。

トイレはチップ制

尾瀬のトイレを利用する際は100円~300円程度のチップをお願いしています。
山登りやハイキングで気になるのがトイレの有無ですが、尾瀬では比較的多くの場所で利用する事ができます。
その全てが合併処理浄化槽を採用しており、排便だけでなく全ての生活排水を汚泥と綺麗な水に分ける事が可能です。
トイレットペーパーの残りカスや汚泥は乾燥させてヘリコプターで運び出し、綺麗な水はパイプを通って尾瀬の外へ排出するとても労力とお金の掛かる方法です。
そうした中で利用者の為にトイレットペーパーを補充し、日々清掃を行ったりと多くの消耗品と人件費も必要としています。
これからも、綺麗なトイレと素晴らしい尾瀬の景色を楽しむために、ご協力を宜しくお願いします。

外来生物の侵入を防ぐ

尾瀬には生物多様性に富んだ自然環境が多く残されています。
生育している動植物を過去から現在、未来へ向けて残すため、外来生物が入り込まないような工夫をしています。
例えば登山道入り口には種子落としマットや、石畳を設置し、靴のソールについた種子や泥を落としてから入山してもらうようにしています。
また、尾瀬関係者やボランティアの方が集まった外来種の駆除作業も定期的に行われており、年々効果を実感しているところです。
今ある自然がいつまでも残るように、ご協力をお願いします。

ペットNG

山にペットを連れていきたい。そうしたお問い合わせをいただく事もありますが、尾瀬国立公園は広く特別保護地区に指定されており、自然公園法 第二十一条にて動物を放つ事が禁じられています。
リードを付けたり、犬用キャリーなら問題ないと思われるかもしれませんが、野生動物から伝染病を移されたり移したりする可能性もあるため推奨しておりません。

登山の装備で訪れる

尾瀬に来るハイカーの中には、ザックも飲み水も持たずに軽装で訪れる方が少なくありません。
平らで真っすぐ伸びた木道を歩くイメージかもしれませんが、湿原に出るまでに登り下りの山道を進みます。
周囲は2000m級の山に囲まれ、尾瀬ヶ原で1400m、尾瀬沼で1660mと立派な山岳エリアです。天候の急変や朝晩の寒暖差も大きいため、登山靴を履いて、レインウェアや防寒着を準備して下さい。
★詳しい持ち物はこちら

装備不足による事故事例を何点かご紹介します。
・夏場に大量の汗をかき、休憩時に冷えて低体温症になった(綿のTシャツを着て、汗も拭かなかった為)
・ハーフパンツで歩き、転んだ拍子に木道の金具に膝をぶつけて怪我をした。
・地図を持たずに歩いたので道を間違え、山小屋に到着したのが深夜になった。
・裏燧林道で持ってきた飲料水が空になった為、沢の水を飲んでお腹を壊した。

上記の一例は比較的軽微な事故かもしれませんが、時にはヘリコプターや人力での救助に及ぶ可能性があります。
民間のヘリコプターの場合、1日あたり100万円の費用が掛かる可能性があるので、事前に防げる事故を減らすためにも、しっかりした装備で尾瀬を歩きましょう。

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